遊墨展

遊墨　oikawa design room
SUMI-ART U-boku
僕は書家ではありません。そして遊墨も書道ではありません。墨と紙と筆その他の道具、更にはパソコンも利用して思いのままに文字や絵を表現する、アートで言うならコラージュのような作品です。
　僕には完成度の高い文字を一気に書く技術はありません。それでも何か言葉が浮かび、それをどうしても文字や絵に表わしたい衝動に駆られていた時、初めて日本酒のラベルデザインを依頼され、思い切って筆をとってみました。今から15年ほど前のことでした。
　しかし何十枚何百字書いても思いどおりに書けませんでしたが、その中に部分的に気に入ったフォルムが散在していることに気がつきました。これらを繋ぎ合わせたら自分にしか作れない文字が出来るのでは……そう考えて試行錯誤を繰り返しました。その間、墨には遊ばれ紙にも遊ばれの連続でしたが、筆（和筆、絵筆ほか）や割りばしや、ときには自分の指に墨を付けて紙の上を動かすと、思いも寄らない不思議な形やカスレ、にじみが生まれ、それらのパーツを選び、繋ぎ合わせて狙いどおりの文字やイラストが出来た時は、喩えようもない喜びでした。
　考えてみれば、自分はデザイナーであり、普段ロゴタイプやシンボルマークを制作しているわけで、このような文字制作をしてもなんの不思議もないはずでしたが、曽祖父から祖父、父が日本画家あるいはデザイナーであり書家でもあったためか、どこかに正当な書道に対する畏怖の念があって遠回りしてきたように思います。何かがふっきれたというのでしょうか、今ではパソコンから出力する面白さを見つけ、今度こそ僕自身が遊ばせてもらっています。
　作品をお見せするにあたり、これまで墨と遊び墨に遊ばれた頃を振り返り、これを［遊墨］と名付けました。だから僕は遊墨の民「遊墨民」なのです。